「豚脂の有用性と魅力を学ぶ」をメインテーマに
豚肉勉強会主催第25回勉強会が盛大に開催されました！

　豚肉勉強会（JPN、呼びかけ人：桑原康（農）富士農場サービス・グループ代表）主催の第25回勉強会が12月12日、「 豚脂の有用性と魅力を学ぶ」をメインテーマに、会場受講とオンライン受講のハイブリッド形式で開催されました。会場となった東京・本郷のLMJ東京研修センターには約50名様、Zoomによるオンライン受講には約30名様が参加されました。受講者は全国の外食企業、養豚生産会社、飼料会社、食肉流通会社、食肉加工会社、種豚会社の方々で、会場、オンライン双方から多数の質問が挙がり活発な質疑応答や意見・情報交換が行われました。

　今回の勉強会では、「豚脂の有用性と魅力を学ぶ」をメインテーマに、研究者・医師・料理人・流通関係者といった多角的な視点から“脂の価値”を探るべく、科学的な脂質研究の最新動向から、豚の品種ごとの味わい比較、商品としての付加価値まで、実践的かつ奥深い内容を網羅。豚肉の未来を支える「脂」の真価を学び、味わい、考えることができました。

　勉強会の冒頭、桑原康さんが、「これまで豚肉の『脂』は、どちらかといえば避けるべきもの、体に悪いものとして語られることが多かったように思います。しかし本日の勉強会では、その固定観念を見直し、豚肉の脂質が持つ栄養的価値や美味しさについて、先生方からご説明いただきます。この豚肉勉強会は2014年3月19日に発足し、新型コロナや豚熱などで開催できない年もありましたが、おかげさまで11年を迎えました。生産者と関連企業が垣根を低くして学び合い、高品質な豚肉づくりを目指して続けてきた会です。直近ではアフリカ豚熱や酷暑の影響など、豚肉を取り巻く環境は大きく揺れています。だからこそ本日、改めて豚肉の価値を考える機会にしたいと思います」と力強く開会のあいさつをしました。

　この後、講演に入り、まず宮崎大学農学部農学部門動植物資源生命科学領域の河原聡先生から、「脂肪の質が拓く豚肉の未来」と題してご講演いただきました。河原先生は、豚脂の栄養価・風味・加工適性を中心に、脂肪の質が豚肉の価値を大きく左右することを強調されました。豚脂はオレイン酸を多く含み、融点が低いほど口溶けが良く、上品で甘い香りを生みやすいことを示す一方、リノール酸が多い脂肪は酸化しやすく、異臭や劣化の原因となる点にも触れられました。また、脂肪酸組成は飼料の影響を強く受けるため、食品としての栄養価と食味を両立するには、飼料設計や脂肪の融点管理が極めて重要であると指摘。さらに加工適性とも密接に関連し、融点が低すぎれば乳化不良、高すぎれば口溶け低下を招くことから、脂肪の質の理解と適正管理が、豚肉の品質向上と差別化の鍵になるとまとめられました。

　続いて、北里大学北里研究所病院の山田悟先生から「科学的根拠に基づく最新の栄養学 ～脂質こそ最も安全な栄養素～」と題してご講演いただきました。山田先生は、最新の栄養学の視点から「脂質こそ最も安全な栄養素です」と述べ、健康を損なう真犯人は“食後高血糖”にあると強調されました。糖質は血糖値を急上昇させ、メタボや老化、認知機能低下まで連鎖的に引き起こす一方、脂質とたんぱく質は体に負担をかけにくいと説明。とくにロカボ（適正糖質）食の有効性を、無作為比較試験などの科学的根拠に基づき示し、体重・血糖・脂質の改善効果を解説されました。また、従来の「脂質悪玉論」が観察研究の誤った解釈に基づいていた歴史にも触れ、飽和脂肪酸を恐れる必要はないと指摘。最後に山田先生は、「食べることは楽しみであり、健康づくりにおいても極端な制限は必要ありません」と語り、糖質との賢い付き合い方こそが人生の質を高めるとされました。

　La Boucherie Goutonsの郷卓也シェフは、「料理人から見る豚の品種による脂の評価」と題して料理人の視点から、豚肉のおいしさは「脂の質」で決まると強調されました。脂は品種や飼育環境、食べている餌、部位や加熱方法によって香り・甘み・口溶けが驚くほど変わる“表情豊かな素材”であり、真っ白で厚みのある脂こそ赤身の旨さも支えると説明。世界の豚脂文化として、コンフィやラルドなど脂を生かした伝統料理を紹介し、脂そのものが味の主役になり得ることを示されました。さらに、国産WLD、アメリカ産、中ヨークシャー、マンガリッツァ豚（50％、YB×M）の4品種の脂身の多いロースを低温調理したものを参加者の方々全員に試食してもらい、「香り・甘み・口溶け」といった脂質が品種ごとに大きく異なる体験をしていただきました。そして講演の締めくくりとして、「豚肉の美味しさに脂はとても重要。品種ごとの脂の個性を知り、良質な脂を味覚として楽しむ視点につながれば嬉しいです。豚肉の魅力を多くの方に広めていける店づくりを続けていきたいです」と述べられました。

　静岡県立大学食品栄養科学部栄養生命科学科（栄養化学研究室）の三浦進司先生からは、「肉質の指標としてのリン脂質」と題して、肉質評価の新たな視点として「リン脂質クオリティ」という概念を紹介されました。リン脂質は細胞膜の主要構成成分であり、その脂肪酸組成の違いは筋線維タイプや機能に深く関わると説明。速筋と遅筋ではPC分子種が大きく異なり、運動や萎縮など生理状態によってもPCプロファイルが変化することを示されました。さらに、鶏・豚・牛・ラムといった肉種や部位ごとに特徴的なPC分子が存在し、リン脂質プロファイルだけで種や部位を判別できる可能性を提示。とくに豚肉では品種や性別、系統の違いがPCクオリティに反映されることが明らかになり、銘柄豚の新たな科学的指標になると強調されました。官能評価に頼らない客観的な肉質評価法として、リン脂質クオリティが将来的に大きな価値を持つとまとめられました。

　最後に、鈴商ミートサプライ㈱取締役営業部統括部長の鈴木基弘さんから、「豚肉流通2.0～食肉卸から見た『脂』の価値と『本質重視』の新しい豚肉流通の形」と題し、脂の価値を軸にした新しい流通の在り方を語っていただきました。鈴商ミートサプライさんは、東京食肉市場での厳格な目利きを強みに、1日1000頭出荷の中から“本当に間違いない”豚だけを競り落とし、14日以上の枝枯らし、自社脱骨・即日販売を徹底。扱う銘柄・品種は国内屈指の多さで、飲食店の細かなニーズに応える小ロット対応も特徴です。鈴木さんは、「脂こそ豚肉の味を決める最大要素」とし、消費者・料理人に広がる“脂の旨さ”への再評価を紹介。ブランド名だけに依存せず、目利きと品質で価値を届けることが流通の責務であることを強調されました。

　講師の先生方、参加者の皆様、本当にありがとうございました！これからも豚肉勉強会は養豚・豚肉のネットワークを広げ、力強く活動を続けてまいります。

　なお、今回の勉強会におきましても、畜産・食肉関係の業界紙各社様に開催告知や取材協力をいただきました。講演内容も各紙に掲載される予定です。



▲ 今回の勉強会も、全国から多数の方々が会場とオンラインで参加されました


▲ 郷シェフが国産WLD（右上）、中ヨークシャー（右下）、マンガリッツァ豚（50％、YB×M）（左上）、アメリカ産（左下）の4品種の脂身の多いロースを低温調理。参加者の方々全員に試食してもらい、「香り・甘み・口溶け」といった脂質が品種ごとに大きく異なる体験をしていただきました